記事更新!「あなたの訳はどんな訳? – 7つの翻訳方略を覗く」(2019.02.03)

AI翻訳が使える時代に、英語学習は必要なのか?―ワカテミートアップ

ワカテミートアップとは...
各々の考えを答え合わせしながら問いを追究する、対話と学び合いの場です。詳しくはこちら

はじめに

AI翻訳の実力

2016年にGoogleが発表した、ニューラルネットワークの深層学習(Deep Learning)を応用した新しい翻訳システム、ニューラル機械翻訳(Neural Machine Translation: NMT)は、従来のものと比較して、その精度が飛躍的に向上したと言われています。

その実力はTOEIC 900点の保有者と同等以上の英文作成能力があると報告されているほど1)みらい翻訳(2017)「TOEIC900点以上英作文能力を持つ深層学習による機械翻訳エンジンをリリース」 Retrieved October 25, 2018, from https://miraitranslate.com/uploads/2017/06/2d5778dcdee47e4197468bc922352179.pdf

https://miraitranslate.com/uploads/2017/06/2d5778dcdee47e4197468bc922352179.pdf から引用。

一方で、日本人の平均TOIECスコアはおよそ600点です2)TOEIC® Program. (2016). DATA & ANALYSIS
2016 2015年度 受験者数と平均スコア. Retrieved January 21, 2019, from http://www.iibc-global.org/library/redirect_only/library/toeic_data/toeic/pdf/data/DAA.pdf

http://www.iibc-global.org/library/redirect_only/library/toeic_data/toeic/pdf/data/DAA.pdf から引用。

リスニングとリーディングの全体スコアの分布表。最も多いスコアは600点前後。一方で900点を超える受験者は全体のおよそ3%ほど。

もちろん、TOEICのスコアが英語力すべてを示すわけではありません。かといって、機械翻訳の実力を過小評価することがもはやできなくなってしまったことも事実です。

そのような背景のなかで、今回は「AI翻訳が使える時代に、英語学習は必要なのか?」について議論を行います。 ディスカッションは、参加者が順番に意見を発表し、それぞれの発表後にディスカッションを行う流れです。それではいってみましょう!

参加するメンバー

ゆうすけ

機械翻訳を代表する技術的転回が翻訳のあり方を変えつつあります。そのような拡張された時代において見えてくる言葉の本質を探究しています。今は機械翻訳を軸に翻訳学の観点から研究中。「あそび」としての学問を目指しつつ、謙虚に生きていきたいです。

ポートフォリオを見る
「ゆうすけ」の投稿一覧

Nanami

翻訳通訳学が専門の修士2年生。研究の関心は、翻訳プロセス。特に、「HT(人手翻訳)に必要な力」をプロセスの観点から追求します。Positive × Strictな姿勢を大切に、日々楽しく研究に取り組みます。

ポートフォリオを見る
「Nanami」の投稿一覧

Nao

只今、翻訳通訳学を学習中です。生来怠け癖がありますが、日々刺激を受けて頑張ります。現在の興味関心は「翻訳通訳で世の中を何かしら支えること」。たまに逸れたり逆走したりしますが、楽しい記事をお送りしていきますので、悪しからず!

AI翻訳があれば、英語学習はしなくてもよい?

えっと、どこから始めましょうか。

ゆうすけ

Nanami

実際こういう議論って、頻繁に行われてるものなのかな?私達は研究分野の関係で、話す機会もよくあるように思うけど。

Nao

この前、まさに今回のテーマ!っていう文献を読んだよ。『人工知能時代の外国語教育』3)浅野享三(2018)『人工知能時代の外国語教育』南山大学短期大学部紀要終刊号, pp. 95―105.っていうやつ。機械翻訳が使える時代に、どのような言語教育が必要なのか、が議論されてた。今回のテーマと似ているね。
結論はどのような感じだったんですか?

ゆうすけ

Nao

うーん、簡単にいうと、異文化理解を深めるみたいなことだったかな。今回の私の意見とだいぶ似ている感じ。外国語の技術的な側面を教えるだけではなくて、グローバル社会で生き抜く知恵を身につけるべきと。他にも言語学習を通して自分のアイデンティティを確立することも書いてありました。
機械翻訳は翻訳するという意味においても、どうしても言語をコミュニケーションの道具として、捉えるきらいがありますよね。でも、それだけではない、っていうのが今の言語教育の流れのような気がします。アイデンティティ=言語という流れが。

ゆうすけ

Nanami

単に言語(の仕組み)を学ぶというところからは離れていきそうだね。

コミュニケーションには異文化理解が不可欠

Nao

私は必要であると思っています。
ただ、ここで述べたい外国語学習は、「外国語(英語)理解や、使えるようになるための文法などを重視する」ものではなく、「外国語を通して、自文化と異文化への理解を深めたり、その文化が混じり合った中で行動する術を知ること」を目的とするものです。

今後、機械翻訳が発展していき、「機械翻訳を通せば、外国語を理解できる/外国語で伝えられる」となった時、疑問として上がるのは、議題にも挙がっているように、学習者はなぜ外国語を学ぶのか?ということです。そこで思うのは、機械翻訳があれば、表面的な意思の疎通をすることができたとしても、文化的な差異を埋めることはできないのではないでしょうか。
コミュニケーションをとる時、言語からのみ情報を理解できる割合は35%、残り65%は非言語から読み取ると言われています4)Birdwhistell, R. (1970). Kinesics and context. Philadelphia: University of Pennsylvania Press.。機械翻訳が言語面をカバーできたとしても、それを用いて意思疎通を図るのは人間であり、非言語の中身は文化によってそれぞれ異なります。だから、文化によって「考え方が違う」/だから「伝え方も違う」ということを理解する必要がある。そして、その文化ごとの「考え方」「伝え方」を学ぶためには、その言語を学ぶことが必要だと思います。

現在、文部科学省で述べられている外国語科における評価の4観点は以下の通りです。

外国語科における評価の4観点
  1. コミュニケーションへの関心・意欲・態度
  2. 外国語表現の能力
  3. 外国語理解の能力
  4. 言語や文化についての知識・理解

この評価の枠組みに当てはめていうと、機械翻訳が発展し、自ら外国語を操らなくても「外国語での意思疎通」ができるようになった時、特に重視していくのは、「①コミュニケーションへの関心・意欲・態度」と「④言語や文化についての知識・理解」だと思います。

加えて、機械翻訳はただ言葉を入れればいいわけではなく、正しく機械翻訳されるために必要なプリエディットや、機械翻訳された後の翻訳文も正しく編集するポストエディット、といった作業が必要です。そこで、今後は、機械翻訳の扱い方も含めて、言語学習を通した自文化と異文化への理解が求められると思います。

Nanami

外国語科における4観点についてやねんけど、なんでコミュニケーションと異文化への知識以外の部分、を強調する必要があるんやっけ?

Nao

②外国語表現の能力と③外国語理解の能力の2つは、これからの機械翻訳にも、もしかすると現状の機械翻訳でも可能になっているところなのかと思って。どちらかといえば、従来の教育は外国語能力を重視していたけど、これからは徐々に異文化理解に焦点を当てた授業が増えていくんだと思う。

Nanami

機械翻訳が使えるという背景を考えると、適切に使うために異文化を理解することが大切だと考えることもできると思う。むしろ、これから機械翻訳の精度が上がって、言語能力の部分が補えるとしたら、コミュニケーションのとり方に関心を持つことや異文化に対する正しい理解を持つことが学習のメインになるかもしれない。より具体的に、機械翻訳を実際に使用する時を考えると、必要なコミュニケーション能力も分けられる気がする。機械翻訳の訳文に「問題ない場合のコミュニケーション能力」と、「問題がある場合のコミュニケーション能力」。どちらも、ノンバーバル(非言語)の部分になるから、似ているかもしれないけど。
そうですね。ただ、自動翻訳に問題がある場合はバーバルな能力も部分的に必要な気もします。ノンバーバルな表現では限界がありますからね。また、コミュニケーションを広く捉えた場合、対話だけではなくて、読み書きにも当てはまると思います。そんな場合は、違う意味のノンバーバルが必要になってくると思います。例えば、論理構造とか。これをノンバーバルと言っていいのかはわかりませんが…。あと、評価すると言った意味でも、コミュニケーション能力・異文化理解と言語能力がスパッと分けられるかと言われれば疑問ですね。もちろん、それを想定した上での分類なんでしょうけど。

ゆうすけ

Nao

機械翻訳でも翻訳メモリである程度の異文化要素を適切に訳すことはできるよね。
翻訳メモリ
原文と翻訳文を一対として、それをデータベース化したものを繰り返し利用し、翻訳を支援する翻訳支援ツールのこと。

Nanami

うん、でもそれは多分人間と訳文を作り出すプロセスが違うからこそ、限界もあるんだと思う。
異文化をパターン化できる範囲でしか、適切な訳出はできないと思うんですよね。異文化とコミュニケーションの理解をどう線引きするのかも、また問題ではあると思うのですが…。

ゆうすけ

ユーザーがAI翻訳の正誤を確認する必要がある

Nanami

私も必要あると思っています。
私がこの議論で対象としたいのは、現時点で英語を学んでいない人orいま仕方なく(授業として与えられるから)学んでいる、あまり使う気力もなければ、頻度も多くない人達です。そんな人達でも必要だと思う理由は2点。1つは「訳が正しいかどうかを判断する能力が必要」だと思うから。2つめは外国語を学ぶことで「母語では陥らない思考に陥ることができる」と思うからです。

まず1つ目に関してですが、「機械翻訳がある時代に」という議題なので機械翻訳を(日常的に)使用する世の中、または使いたいときには使える世の中であることを前提としますね。その時に「機械翻訳があるから自分の言いたいことはその言語に変換されて伝わるし、学ばなくてもいい」というのではなく、むしろ機械翻訳を使用するのだから「訳された文は自分の言いたいことと一致しているか」を判断できる能力が必要だと思います。いつも訳をみてくれる校閲者が自分のそばにいるわけではないのだから、自分自身がチェックできる人でないといけない。

2つめの理由は、機械翻訳どうこうというより、外国語を学ぶことの本質を考えた時に必要だと感じました。どういうことかと言うと、言語の仕組みを知っているかではなく、外国語を学ぶことで自分の思考に刺激を与えられるということです。母語でコミュニケーションをしているときは (理解されることが当たり前に過ぎて)改めて言葉を見直す機会があまりありません。対して外国語を使用しているときは、word選択や話す順序なども含め、普段母語で行う思考から少し離れることで、自分の言いたいことが実はクリアでなかったとか、わかっていると思っていたことが実はわかっていなかったというように、自分が言葉を発する際、言いたいことと自分が理解していることのgapに気づきやすい。それに気づくからこそ、自分の思考や理解を見直し、なんとかしてわかる状態にいくための手段を探して解決する力もつくのではないかと思います。もし機械翻訳が完璧だとしたら、言語(の仕組み)を学ぶ意味はなくなるかもしれません。でも、自らの思考や理解の観点で考えるなら「母語で話しているときには陥らない思考に陥ることができる」という点において、機械翻訳があったとしても、外国語を学ぶ必要性も考えられるのではないかと思いました。

Nao

機械翻訳を使うための授業が必要になるんだろうなと思った。それはプリエディットとかポストエディットだけでなくて、自動翻訳文をどのように使うのかっていう一般的な面も。

Nanami

そうだと思う。あと話してて思ったのが、1つめの主張は特に英語に限定されたものだっていうこと。多言語への翻訳だったら、そこまでチェックする力が大多数にないし、現状のリンガフランカの英語に比べて少ないのかなと。日本で学生は英語を学ばなければならない環境にいるという観点が私の主張の前提になっていると思う。
世界の情報はやっぱり英語が割合的に一番大きいですからね5)Internet World Stats. (2017). INTERNET WORLD USERS BY LANGUAGE. Retrieved December 27, 2018 from https://www.internetworldstats.com/stats7.htm。それに、リーチできるくらいの機械翻訳を適切に使用できる能力、ここでは英語の訳文をチェックできることが必要になってくるのは確かだと思います。

ゆうすけ

Nanami

あ、でも、バックトランスレーションをすれば、英語以外言語のチェックも可能かもしれない。例えば、日本語からスペイン語に翻訳したい時に、スペイン語の訳文が正しいか判断できないから、英語を仲介して翻訳をするみたいな。日本語から英語に自動翻訳して、その英語をスペイン語に翻訳する。その訳文をチェックするために英語にバックトランスレーションする感じ。日本語から直接スペイン語よりも対英語のほうが品質はいいみたいだし。
バックトランスレーション
日本語では「逆翻訳」と言われる。他言語に翻訳したものを、元の言語に再度翻訳すること。この手法によって、訳文の言語知識がなくても、機械翻訳の訳文が正しいかどうかをざっくりと判断することができる。
「確認のための英語」を具体化すると、その1つにポストエディットがあると思います。要は、機械翻訳の訳文を編集する作業で、翻訳実務でも人気があるみたいですが。最近の山田先生と大西さんの研究6)山田優, 大西菜奈美. (2018). それでも学生はポストエディターになれるのか?ニューラル機械翻訳(Google NMT)を用いたポストエディットの検証. 言語処理学会第24回年次大会発表論文集, pp.738-741.で、ポストエディット独自の編集能力というよりも、翻訳のスキルがポストエディット教育に必要ではないかという結論でしたよね。ニューラル機械翻訳が起こす訳文のエラーと学生が起こすエラー、この2つは似ていて、機械翻訳が人間に近くなってきている。また、ポストエディットの体感負荷も、従来の統計機機械翻訳よりも上がっていると。編集量は少なくなっているのに。これは、ポストエディットが前よりも難しくなったということですよね。

ゆうすけ

ニューラル機械翻訳(NMT)と人間翻訳(HT)をMNH-TTの校閲カテゴリ7)豊島知穂, 藤田篤, 田辺希久子, 影浦峡, Anthony Hartley. (2016). 校閲カテゴリ体系に基づく翻訳学習者の誤り傾向の分析. 通訳翻訳研究への招待, Vol. 16, pp. 47-65.によってエラー分析した結果。従来の機械翻訳に比べて、ニューラル機械翻訳のエラーは人間に近づいてきている。

Nanami

そうそう。ISO8)International Organization for Standardizationの略。ここでは翻訳の国際規格について言及しています。ISOについては、こちらの記事が詳しいです。『翻訳サービスとISO:国際規格 ISO17100』でも「翻訳」は校閲することも含まれてたと思う。もしかすると、翻訳の作業の中に、言語変換の部分は少しずつ無くなっていって、編集・校閲だけがメインになっていくかもしれないね。それに即した、教育が必要になるかも。

Nao

でもそれってやっぱり、英語を学びたいと思っている人のための教育な気がする。英語のプロフェッショナルを教育するための。英語にあまり興味ない人は、使う機会も少ないだろうし、そのために校閲するための英語力をつけるのは難しそう。校閲すべきものとそうでないものがあるから、校閲すべきものに英語のプロフェッショナル、さっきの校閲者としての翻訳者が校閲するでも良い気がする。
校閲するための英語力は相当高いものが必要でしょうしね。ニューラル機械翻訳がTOEIC 900点相当という報告9)みらい翻訳(2017)「TOEIC900点以上英作文能力を持つ深層学習による機械翻訳エンジンをリリース」 Retrieved October 25, 2018, from https://miraitranslate.com/uploads/2017/06/2d5778dcdee47e4197468bc922352179.pdfもありますけど、それが事実ならそれ以上の英語力が必要になりますから。

ゆうすけ

機械翻訳はスコポスを訳せない

僕の答えも「必要である」です。

ゆうすけ

やはり機械翻訳が訳文を問題なく生み出すことができるようになっても、現状の世界共通言語である英語を学ぶ必要はあると思います。

理由は、大西さんの意見と被るのですが、やはり訳文を確認しなければならない時がやってくるからです。たしかに、一部の英語のプロフェッショナル(翻訳者)にその確認を任せてもかまわないかもしれません。現に機械翻訳の訳文を編集するポストエディットがいま翻訳業界でも注目を集めています。

しかし、現状の翻訳者が翻訳できる情報はほんのごく一部です。ある調査10)Common Sense Advisory. (2018). Machine Translation for Human Innovation. Retrieved on November 17, 2018 from http://www.commonsenseadvisory.com/machine_translation.aspxでは、世界のコンテンツの1%以下しか、翻訳されていません。また、アクティブなプロ翻訳者はおよそ20万程度しかいないのに対して、世界の翻訳需要を満たすには2,000万人の翻訳者が必要である、とも報告されています。このことから、人間の翻訳のみに頼っていては、単一言語話者は世界の情報のごく一部しか参照することができないと言えます。このことは英語による情報の格差に繋がります。そして、世界がますますグローバライズされていくにつれて、この翻訳需要も増加していくでしょう。

このような問題の解決策として、機械翻訳の実用化が模索されています。しかし、現状のAI翻訳、またその延長線上の精度が向上した機械翻訳システムでも、人間の翻訳に近づくことはないと言えます。例えば、スコポスに沿った訳文の産出はできません11)藤田篤(2018)「機械翻訳ができそうなこととできないこと」 日本通訳翻訳学会第19回年次大会 特別企画公開シンポジウム『翻訳におけるテクノロジーを考える』Retrieved January 22, 2019, from http://paraphrasing.org/~fujita/publications/mine/fujita-JAITS2018-slides.pdf

スコポス
「スコポス(Skopos)」はギリシャ語で「目的」という意味。「スコポス理論」は訳文がどのようなコミュニケーションで使われるのか、翻訳の目的によって訳文が決定するという考え方。ドイツの翻訳研究者フェアメーア(Vermeer, H.)が主な提唱者である。

現状の機械翻訳も、これからの機械翻訳も、多くの場合、その訳文がどのようなコミュニケーションに用いられるかを判断して翻訳を行うことはできないのです。逆に言えば、機械翻訳を適切に使うためには、ユーザーがスコポスにあわせて訳文を修正する必要があります。しかし、スコポスによっては、修正するというよりも、自分で初めから翻訳しなければならないケースが出てくるでしょう。

つまりは、誤訳であるかどうかのレベルを超えた、スコポスに合わせた翻訳を実現するためには、ユーザー側が異文化理解と高い英語運用能力を持っていることが不可欠だと考えています。

機械翻訳はX文Y訳、つまり原文一文に対して、一文の訳文を生み出すことができないですよね12)藤田篤(2018)「機械翻訳ができそうなこととできないこと」 日本通訳翻訳学会第19回年次大会 特別企画公開シンポジウム『翻訳におけるテクノロジーを考える』Retrieved January 22, 2019, from http://paraphrasing.org/~fujita/publications/mine/fujita-JAITS2018-slides.pdf。要は、異文化要素に注釈を入れたり、その要素が必要なければ、一般化したり、文化に合わせて別のものに置換したり。そういったスコポスを意識した訳文は人間にしかできなくて、それは翻訳と呼ぶべきものじゃないかと。

ゆうすけ

Nanami

確かに、それは機械翻訳にはできないだろうね。少なくともしばらくは。

Nao

ビジネス通訳でも、自分のクライアントに利益のあるように訳すとか、法廷通訳では証言のニュアンスまで出来る限り変えることなく訳すことが求められるもんね。
はい。そういった訳出の決定要因には、とても複雑な文脈が絡んでいますよね。それも場合によっては人間同士でも相違が生まれるほど複雑に。そういったことは人間にしかできないわけで、それを機械翻訳を使って達成するには、すくなくとも機械翻訳に負けないくらいの英語運用能力は必要だと思います。異文化の文脈や言葉のニュアンスまで理解する必要がありますから。

ゆうすけ

おわりに

暫定的な結論

今回、僕たちの意見はすべて「必要である」でした。
その理由をまとめるとこのようになります。

  • 機械翻訳を適切に使用するためにも、異文化やスコポスを理解する必要がある。
  • 自動翻訳結果の正誤を確認する必要がある。
  • 翻訳に頼るだけでは、情報の格差に繋がってしまう。

グローバライズされる世界が適切な異文化コミュニケーションを必要とする背景において、翻訳はますます重要な概念になっています。しかし、翻訳の需要が増える一方、翻訳者の数が足りないため、低コストでデリバリーの早い機械翻訳が注目を浴びています。一方で、そんな機械翻訳には限界があり、その限界こそがこれから私たちが学ぶべきものです。それは、文化間の差異や、翻訳のスコポスを理解することです。これらを理解するためには、小手先の機械翻訳の使い方を知ることではなく、やはり言語を学ぶ必要があります。

しかし、この結論は暫定的なものです。今回の議論で自分がわかっていなかったこと、より詳しく知りたいことが生まれました。これらに対して、再度調査を行うことで、当然結論が変わることもあるでしょう。

生まれたクエスチョン

今回のトピックを更に追究するための関連したクエスチョンがいくつか生まれました。

  • AI翻訳のシステムは具体的にどのようなものなのか?
  • 英語学習者は実際にAI翻訳をどのように使用しているのか?
  • 語用論的目線からAI翻訳ができないこととは具体的にどんなことか?

次回の2019年2月17日はこれらのトピックを中心に文献の共有をする予定です。

次回のお知らせ

次回は2019年2月17日(日)、場所は関西大学を予定しています。

今回参加したメンバーは同じ翻訳学を学ぶ大学院生であったため、必然的に似たような意見になりました。しかし、この問いをより深く探究するためには異なる目線を持つ人の意見も必要であると感じます。そのために、『ワカテミートアップ』では様々な分野で研究を行う参加者が議論を行うことができる場を目指しています。興味がある方は、お問い合わせからご連絡ください。

References   [ + ]

1, 9. みらい翻訳(2017)「TOEIC900点以上英作文能力を持つ深層学習による機械翻訳エンジンをリリース」 Retrieved October 25, 2018, from https://miraitranslate.com/uploads/2017/06/2d5778dcdee47e4197468bc922352179.pdf
2. TOEIC® Program. (2016). DATA & ANALYSIS
2016 2015年度 受験者数と平均スコア. Retrieved January 21, 2019, from http://www.iibc-global.org/library/redirect_only/library/toeic_data/toeic/pdf/data/DAA.pdf
3. 浅野享三(2018)『人工知能時代の外国語教育』南山大学短期大学部紀要終刊号, pp. 95―105.
4. Birdwhistell, R. (1970). Kinesics and context. Philadelphia: University of Pennsylvania Press.
5. Internet World Stats. (2017). INTERNET WORLD USERS BY LANGUAGE. Retrieved December 27, 2018 from https://www.internetworldstats.com/stats7.htm
6. 山田優, 大西菜奈美. (2018). それでも学生はポストエディターになれるのか?ニューラル機械翻訳(Google NMT)を用いたポストエディットの検証. 言語処理学会第24回年次大会発表論文集, pp.738-741.
7. 豊島知穂, 藤田篤, 田辺希久子, 影浦峡, Anthony Hartley. (2016). 校閲カテゴリ体系に基づく翻訳学習者の誤り傾向の分析. 通訳翻訳研究への招待, Vol. 16, pp. 47-65.
8. International Organization for Standardizationの略。ここでは翻訳の国際規格について言及しています。ISOについては、こちらの記事が詳しいです。『翻訳サービスとISO:国際規格 ISO17100』
10. Common Sense Advisory. (2018). Machine Translation for Human Innovation. Retrieved on November 17, 2018 from http://www.commonsenseadvisory.com/machine_translation.aspx
11, 12. 藤田篤(2018)「機械翻訳ができそうなこととできないこと」 日本通訳翻訳学会第19回年次大会 特別企画公開シンポジウム『翻訳におけるテクノロジーを考える』Retrieved January 22, 2019, from http://paraphrasing.org/~fujita/publications/mine/fujita-JAITS2018-slides.pdf

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください