「訳す」とは?
「訳す」とはどのような行為でしょうか?
一般的には「ある言語で書かれた文章を別の言語に変換する」ことを言います。
英語では”translation”、日本語では「翻訳」ですが、両者は少し異なる意味を持ちます。
“translation”は書き言葉を訳すことだけでなく、話し言葉を訳すこと、いわゆる通訳の意味も含んでいます。それに比べて「翻訳」は「通訳」という言葉があることからわかるように、書き言葉の訳出のみを指す場合が一般的です。
では、”translation”という一単語を訳す場合を考えてみましょう。
その単語が「翻訳」を指すのか、「通訳」なのか、それとも両方の意味で使われているのか。話し手または書き手がその言葉をどのような意図で用いているのかを考慮する必要があります。
また、その意図を想像するには、その言葉が生まれた状況、話し手・書き手のプロファイル、その言葉を包み込む文化が必要ですし、訳文を考慮するときにはその訳文が目標文化に与える影響やその言葉が持つ意味合いなど、たくさんの要素を考えなければなりません。
ここに翻訳の難しさが垣間見れるわけです。
ゆうすけ
異文化コミュニケーション
異文化コミュニケーションという言葉は聞いたことはあるでしょうか?グローバル時代に生きる私たちには馴染みのある言葉かもしれません。近年、これに似たような名前の学科が大学に増えてきたように思えます。
Hall, E. T.
異文化コミュニケーションを最初に唱えたとされるホールの言葉です1)Hall, E. T. (1959). The Silent Langugae. New York, NY : Doubleday(ホール, E. T./國弘正雄他訳(1966)『沈黙のことば』南雲堂).。ここから発展させると、人が考えることや話すことは文化を通した言語によって決まる、という考え方につながります。これを言語相対論、またはサピア=ウォーフ仮説と読んだりします。
参考 言語によって思考が決まる?言語相対論/言語決定論/サピア・ウォーフ仮説における意味の違い、批判、経緯Share Study(β)そして「言葉」が「文化」と切っても切れない関係にあるということは、ことばを訳すという作業にも、当然に文化が絡んでくるわけです。
文化といってもそこには知識や信仰、価値観、慣習、法律など、色々な要因が含まれています。これらにはわかりやすいものもありますが、その文化にどっぷり浸かってはじめて知ることができるようなものもたくさんあります。
このような目に見えない文化から生まれる言葉たちを、翻訳者たちは文化ごと理解し、目標の文化にそって再表現するよう努めています。
それだけではありません。
話し手・書き手がどのような人物なのか、その言葉は何のために使われたのか、などの言葉の文脈(context)、訳文の文法的・意味的正しさ、といったような数え切れないほど多くのピースを組み合わせて訳文を生み出しているのです。
もし、あなたが翻訳者を目指しているのならば、言語能力を鍛えるだけでなく、その文化を深く学ぶことも忘れてはいけません。そして何のために訳すのか、翻訳の目的を問い続ける必要があるでしょう2)翻訳の目的が訳出を決定するという考え方を「スコポス理論」と呼びます。。
まとめ
- 言語間で全く同じ意味の言葉が存在することはほとんどない。
- 翻訳は目に見えない文化を訳すことである。
ゆうすけ
参考文献
ゆうすけ
コメントを残す